ビタミンA

 ビタミン A はレチノイドといいます.体内でビタミン A 活性を有するのはレチノール,レチナール,レチニルエステル,βカロテン,αカロテン,βクリプトキサンチンの他 50 種類のビタミン A カロテノイドですが,ここで取り扱うのはレチノール,βカロテン,αカロテンおよび βクリプトキサンチンです.ビタミン A の食事摂取基準の数値はレチノール活性当量という単位で表現します.2010 年版ではレチノール当量という単位で表現していましたが 2015 年版でも数値に変わりはありません.

 ビタミン A は網膜細胞を保護し,視細胞の光刺激反応に関わる物質です.ビタミン A が欠乏すると乳幼児では角膜乾燥症から失明に至ることがあり,成人では夜盲症になります.その他成長阻害,骨・神経系の発達抑制,上皮細胞の分化・増殖の障害,皮膚の乾燥・肥厚・角質化,免疫能の低下,粘膜上皮の乾燥による易感染性などが起こります.

ビタミン A の過剰摂取により急性期には脳脊髄圧上昇,頭痛が起こります.慢性症状として頭蓋内圧亢進,皮膚の落屑,脱毛,筋肉痛が起こります.

ビタミン A の食事摂取基準 (µg RAE/d)(2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量
0-5 M 300 600 300 600
6-11 M 400 600 400 600
1-2 300 400 600 250 350 600
3-5 350 500 700 300 400 700
6-7 300 450 900 300 400 900
8-9 350 500 1200 350 500 1200
10-11 450 600 1500 400 600 1500
12-14 550 800 2100 500 700 2100
15-17 650 900 2600 500 650 2600
18-29 600 850 2700 450 650 2700
30-49 650 900 2700 500 700 2700
50-69 600 850 2700 500 700 2700
70- 550 800 2700 450 650 2700
妊婦付加量初期 0 0
妊婦付加量中期 0 0
妊婦付加量後期 60 80
授乳婦付加量 300 450

 肝臓内ビタミン A を維持するの日必要なビタミン A の摂取量は,安定同位元素で標識したレチノイドを用いてコンパートメント解析により求めます.体重 1 kg あたりの 1 日のビタミン A 排泄量は 9.3 µg/kg/d であり,これがビタミン A の必要量となります.

 成人においては推定平均必要量は参照体重から概算して男性で 550-600 µgRAE/d, 女性で 450-500 µgRAE/d となります.推奨量は推定平均必要量に推奨量算定系数 1.4 を乗じて男性で 800-850 µgRAE/d, 女性で 650-700 µgRAE/d となります.

 小児における推定平均必要量に関する報告はありません.そのため体重比の 0.75 乗を用いて体表面積を推定して外挿し,推定平均必要量を算出しました.ただし 5 歳以下の小児に関してはビタミン A の体重 1 kg あたり 1 日の体外排出量は 18.7 µg/kg/d として推定平均必要量を算出しています.推奨量については成人同様に推定平均必要量に推奨量算定系数 1.4 を乗じて算出しました.

 妊娠期間の最後の 3 ヶ月でビタミン A の殆どが胎児に蓄積します.そのため初期および中期の付加量は 0 とし,後期の付加量を 60 µgRAE/d としました.授乳婦に関しては母乳中に分泌される量を付加することとし, 300 µgRAE/d を付加量の推定平均必要量としました.付加量の推奨量は推奨量算定系数 1.4 を乗じて 450 µgRAE/d としました.

 母乳中のビタミン A 濃度 411 µgRAE/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて丸め処理を行い 300 µgRAE/d を0-5 ヶ月児の目安量としました.6-11 ヶ月児については0-5 ヶ月児の目安量を体重比の 0.75 乗で外挿して丸め処理を行い,400 µgRAE/d を目安量としました.

 成人における耐用上限量は 2700 µgRAE/d とし,乳児では 600 µgRAE/d としました.小児については成人の耐用上限量から体重比から外挿しました.

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂溶性ビタミン
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン A