ビタミンB1

 ビタミン B1 の化学名はチアミンといいます.食事摂取基準ではチアミン塩酸塩量として設定しました.ビタミン B1 はグルコース代謝と分枝アミノ酸代謝に関与しており,欠乏により脚気,ウェルニッケ・コルサコフ症候群を起こします.ビタミン B1 過剰は頭痛,苛立ち,不眠,速脈,脆弱化,接触皮膚炎,痒みなどを起こします.

 食品中のビタミン B1 はチアミンジリン酸 (TDP) として酵素たんぱく質と結合して存在しています.食品が調理加工され胃酸のもとで大部分の TDP から酵素たんぱく質が遊離し,消化管内で加水分解されてチアミンとなり,小腸で吸収されます.ビタミン B1 の相対生体利用率は 60 % と報告されています.

 成人および小児について,ビタミン B1 の必要量を摂取量と尿中排泄量との関係式における変曲点から求めました.一般的に,水溶性ビタミンは必要量を超えると尿中に排泄されるようになります.尿中にビタミン B1 排泄量が増加し始める摂取量を推定平均必要量としました.18 ヶ国から報告されたデータをメタ解析すると,チアミンとして 0.35 mg/1,000 kcal, チアミン塩酸塩として 0.45 mg/1,000 kcal となります.この値を 1-69 歳の推定平均必要量算定の参照値とし,推定エネルギー必要量を乗じて推定平均必要量としました.推奨量は推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じて設定しました.

 妊娠期のエネルギー要求量は個人により異なり,代謝が亢進するため,妊娠後期で算定した付加量 0.2 mg/d を妊娠前期・中期にも適用しました.

 授乳婦の付加量については母乳中の濃度 0.13 mg/L に泌乳量 0.78 L/d を乗じ,相対生体利用率 60 % で除して 0.169 mg/d となり,丸めて 0.2 mg/d を目安量としました.

 0-5 ヶ月児については母乳中の濃度 0.13 mg/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて 0.10 mg/d としました.6-11 ヶ月児については 0-5 ヶ月児からの外挿値と成人からの外挿値との平均値を丸め目安量としました.

 チアミンを大量摂取した場合の臨床症状の報告はあるものの,耐用上限量を設定するに足る報告が十分でなく,設定しませんでした.

ビタミン B1 の食事摂取基準 (mg/d) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.1 0.1
6-11 M 0.2 0.2
1-2 0.4 0.5 0.4 0.5
3-5 0.6 0.7 0.6 0.7
6-7 0.7 0.8 0.7 0.8
8-9 0.8 1.0 0.8 0.9
10-11 1.0 1.2 0.9 1.1
12-14 1.2 1.4 1.1 1.3
15-17 1.3 1.5 1.0 1.2
18-29 1.2 1.4 0.9 1.1
30-49 1.2 1.4 0.9 1.1
50-69 1.1 1.3 0.9 1.0
70- 1.0 1.2 0.8 0.9
妊婦付加量 0.2 0.2
授乳婦付加量 0.2 0.2
ビタミン B1 の食事摂取基準 (mg/d) (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.1 0.1
6-11 M 0.3 0.3
1-2 0.5 0.5 0.4 0.5
3-5 0.6 0.7 0.6 0.7
6-7 0.7 0.8 0.7 0.8
8-9 0.8 1.0 0.8 1.0
10-11 1.0 1.2 0.9 1.1
12-14 1.1 1.4 1.0 1.2
15-17 1.2 1.5 1.0 1.2
18-29 1.2 1.4 0.9 1.1
30-49 1.2 1.4 0.9 1.1
50-69 1.1 1.3 0.9 1.0
70- 1.0 1.2 0.8 0.9
前期妊婦付加量 0.0 0.0
中期妊婦付加量 0.1 0.1
後期妊婦婦付加量 0.2 0.2
授乳婦付加量 0.2 0.2

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)水溶性ビタミン (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン B1 (pdf)