ビタミンB2

 ビタミン B2 の化学名はリボフラビンで食事摂取基準はシボフラビン量として設定されました.ビタミン B2 にリン酸が一つ結合したフラビンモノヌクレオチド (FMN) それに AMP が結合したフラビンアデニンジヌクレオチド (FAD) は共にビタミン B2 に消化されて吸収されるため,ビタミン B2 と当モルの活性を示します.

 ビタミン B2 は補酵素 FMN および FAD としてエネルギー代謝や物質代謝に関わっています.TCA 回路,電子伝達系,脂肪酸の β 酸化などのエネルギー代謝に関わっており,ビタミン B 2 が欠乏すると成長抑制,口内炎,口角炎,舌炎,脂漏性皮膚炎を引き起こします.

 食品中のリボフラビンは大半が FAD や FMN として存在しており,調理・胃酸の影響によりFAD, FMN は遊離します.遊離した FAD, FMN は小腸粘膜の FMN フォスファターゼおよび FAD ピロフォスファターゼにより加水分解されてリボフラビンになり,小腸上皮細胞から能動輸送により吸収されます.日本人における食事中のビタミン B2 の相対生体利用率は 64 % と報告されています.

 ビタミン B2 の必要量を求める方法には,欠乏症からの回復に必要な最小量と,摂取量と尿中排泄量との関係式による変曲点とがありますが,両者の値は異なります.ここでは水溶性ビタミンは必要量を満たすまでは尿中に排泄されず,必要量を超えると急激に尿中排泄量が増大するとの考えから,変曲点を必要量とすることとします.摂取量が 1.1 mg/d を超えると摂取量に依存して尿中ビタミン B2 排泄量が増大する (pdf)ことから,これを必要量と考えます.

成人・小児の推定平均必要量・推奨量

 ビタミン B1 と同じく,尿中にビタミン B2 の排泄量が増加し始める最小摂取量を推定平均必要量としました.実験時のエネルギー摂取量が 2,200 kcal/d であったため,1-69 歳におけるエネルギー摂取量あたりの推定平均必要量を算定するための参照値は 0.50 mg/1,000 kcal です.この参照値に年齢区分ごとの推定エネルギー必要量を乗じて推定平均必要量を算定しました.推奨量は,推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じました.

妊婦の付加量の推定平均必要量・推奨量

 妊婦の付加量はビタミン B2 がエネルギー要求量に応じて増大することから算定しました.妊娠によるエネルギー付加量は初期で 50 kcal/d 中期で 250 kcal/d, 後期で 450 kcal/d ですが,これらに推定平均必要量の参照値 0.50 mg/1,000 kcal を乗じると初期は 0.03 mg/d 中期は 0.13 mg/d, 後期は 0.23 mg/d となります.しかし妊娠期は個人によりエネルギー要求量が異なり,妊娠中は特に代謝が亢進するため,妊娠後期の値を全妊娠期間の必要量としました.妊婦の付加量の推定平均必要量は丸めて 0.2 mg/d とし,推奨量は 0.3 mg/d としました.

授乳婦の付加量の推定平均必要量・推奨量

 授乳婦の付加量は,母乳中の濃度 0.40 mg/L に泌乳量 0.78 L/d を乗じ,相対生体利用率 60 % で除して算出し,0.5 mg/d としました.

乳児の目安量

 0-5 ヶ月児の乳児の目安量は母乳中の濃度 0.40 mg/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて 0.31 mg/d となり,丸めて 0.3 mg/d としました.6-11 ヶ月児の目安量は 0.4 mg/d としました.

 リボフラビンは過剰量が吸収されても余剰は速やかに尿中に排泄され過剰摂取による影響を受けにくいため,耐用上限量は設定しませんでした.

ビタミン B2 の食事摂取基準 (mg/d) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.3 0.3
6-11 M 0.4 0.4
1-2 0.5 0.6 0.5 0.5
3-5 0.7 0.8 0.6 0.8
6-7 0.8 0.9 0.7 0.9
8-9 0.9 1.1 0.9 1.0
10-11 1.1 1.4 1.1 1.3
12-14 1.3 1.6 1.2 1.4
15-17 1.4 1.7 1.2 1.4
18-29 1.3 1.6 1.0 1.2
30-49 1.3 1.6 1.0 1.2
50-69 1.2 1.5 1.0 1.1
70- 1.1 1.3 0.9 1.1
妊婦付加量 0.2 0.3
授乳婦付加量 0.3 0.6
ビタミン B2 の食事摂取基準 (mg/d) (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.3 0.3
6-11 M 0.4 0.4
1-2 0.5 0.6 0.5 0.5
3-5 0.7 0.8 0.6 0.8
6-7 0.8 0.9 0.7 0.9
8-9 0.9 1.1 0.9 1.0
10-11 1.1 1.4 1.0 1.2
12-14 1.3 1.5 1.1 1.4
15-17 1.4 1.7 1.1 1.4
18-29 1.3 1.6 1.0 1.2
30-49 1.3 1.6 1.0 1.2
50-69 1.2 1.5 1.0 1.2
70- 1.1 1.3 0.9 1.1
妊娠初期付加量 0.0 0.0
妊娠中期付加量 0.1 0.2
妊娠後期付加量 0.2 0.3
授乳婦付加量 0.3 0.4

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)水溶性ビタミン (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン B2 (pdf)

たんぱく質

RecommendeAmountProtein

 たんぱく質についての記載は 2010 年版では 9 ページ,参考文献は 73 件ですが 2015 年版では 14 ページ,参考文献 119 件に増えています.

 2010 年版では耐用上限量を設定していませんが,成人においてはたんぱく質摂取量は 2.0 g/kg/d 未満に留めるのが望ましいとしています.

 2015 年版では生活習慣病の重症化予防に重点を置いており,たんぱく質エネルギー比率が 20 % エネルギーを超えた場合の健康障害として糖尿病発症リスクの増加,心血管疾患の増加,がんの発症率の増加,骨量の減少,BMI の増加を挙げて,たんぱく質エネルギー比率が 20 % エネルギーを超えないように注意を喚起しています.

 不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の推定平均必要量については 2010 年版では成人のみ記載されていましたが 2015 年版では乳児・小児についても記載が追加されています.

 2015 年版のたんぱく質の食事摂取基準は下表のとおりです.

たんぱく質の食事摂取基準(推定平均必要量・推奨量・目安量 (g/d), 目標量(中央値) % エネルギー)2015 年版
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 目標量 (中央値) 推定平均必要量 推奨量 目安量 目標量 (中央値)
0-5 M 10 10
6-8 M 15 15
9-11 M 25 25
1-2 15 20 13-20 (16.5) 15 20 13-20 (16.5)
3-5 20 25 13-20 (16.5) 20 25 13-20 (16.5)
6-7 25 35 13-20 (16.5) 25 30 13-20 (16.5)
8-9 35 40 13-20 (16.5) 30 40 13-20 (16.5)
10-11 40 50 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
12-14 50 60 13-20 (16.5) 45 55 13-20 (16.5)
15-17 50 65 13-20 (16.5) 45 55 13-20 (16.5)
18-29 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
30-49 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
50-69 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
70- 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
妊婦初期付加量 0 0
妊婦中期付加量 5 10
妊婦後期付加量 20 25
授乳婦 付加量 15 20

 2010 年版のたんぱく質の食事摂取基準は下表のとおりです.

たんぱく質の食事摂取基準 (g/d) 2010 年版
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量
0-5 M 10 10
6-8 M 15 15
9-11 M 25 25
1-2 15 20 15 20
3-5 20 25 20 25
6-7 25 30 25 30
8-9 30 40 30 40
10-11 40 45 35 45
12-14 45 60 45 55
15-17 50 60 45 55
18-29 50 60 40 50
30-49 50 60 40 50
50-69 50 60 40 50
70- 50 60 40 50
妊婦初期付加量 0 0
妊婦中期付加量 5 10
妊婦後期付加量 20 25
授乳婦 付加量 15 20

 窒素出納実験により測定された動物性たんぱく質のたんぱく質維持必要量をもとに,それを日常食混合たんぱく質の消化率で補正して推定平均必要量算定の参照値を算定し,その上に個人間変動を加えて推奨量を算定します.

 たんぱく質の推奨量 (g/d) は,推定平均必要量 (g/d) と推奨量算定係数との積です.推定平均必要量は,推定平均必要量算定の参照値 (g/kg/d) と参照体重 (kg) との積です.推定平均必要量算定の参照値は,たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) を消化率で除した値です.

 推奨量算定系数は 1.25 です.消化率は 0.9 です.

成人

 動物性たんぱく質の窒素出納維持量を検討した 17 の研究の平均値から求めた成人のたんぱく質維持必要量は 0.65 g/kg/d で,消化率 0.9 で割ると推定平均必要量算定の参照値は 0.72 g/kg/d です.

\mathrm{Estimated\ Averege\ Requirement}=0.72\times\mathrm{Reference\ Weight}
\mathrm{Recommended\ Amount}=\mathrm{Estimated\ Average\ Requirement}\times1.25

高齢者

 高齢者のたんぱく質推定平均必要量は 0.85 g/kg/d です(ただし消化率で補正済み).5 つの研究の 60 名の被験者の窒素出納 144 データを用いたプール解析から算出した値です.

小児

 小児の推定平均必要量算定の参照値は,たんぱく質維持必要量とたんぱく質蓄積量の和です.推定平均必要量は,推定平均必要量算定の参照値に参照体重を乗じて求めます.推奨値は推定平均必要量に推奨量算定係数 1.25 を乗じた値です.たんぱく質維持必要量は 0.67 g/kg/d です.

小児についてはさらに下表のように詳細な記載があります.2010 年版もありますが,基準体重の数値およびその計算結果が異なるだけなので掲載しません.また小児の推定平均必要量算定の参照値を求める下式は 2010 年版は誤りで,2015 年版が正しい式です.

小児の推定平均必要量,推奨量 2015 年版
男子
A B C D E F G H I
年齢 (Y) 参照体重 (kg) 体重増加量 (kg/Y) 体たんぱく質 (%) 体たんぱく質蓄積量 (g/kg/d) 蓄積効率 (%) たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) 利用効率 (%) 推定平均必要量 (g/d) 推奨量 (g/d)
1-2 11.5 2.1 13.2 0.064 40 0.67 70 12.9 16.1
3-5 16.5 2.1 14.7 0.050 40 0.67 70 17.9 22.3
6-7 22.2 2.7 15.5 0.051 40 0.67 70 24.1 30.1
8-9 28.0 3.2 14.5 0.046 40 0.67 70 30.0 37.5
10-11 35.6 4.7 13.9 0.050 40 0.67 75 36.3 45.3
12-14 49.0 5.1 13.9 0.039 40 0.67 80 45.9 57.3
15-17 59.7 2.0 15.0 0.014 40 0.67 85 49.1 61.4
女子
A B C D E F G H I
年齢 (Y) 参照体重 (kg) 体重増加量 (kg/Y) 体たんぱく質 (%) 体たんぱく質蓄積量 (g/kg/d) 蓄積効率 (%) たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) 利用効率 (%) 推定平均必要量 (g/d) 推奨量 (g/d)
1-2 11.0 2.2 13.0 0.070 40 0.67 70 12.5 15.6
3-5 16.1 2.1 14.1 0.051 40 0.67 70 17.5 21.8
6-7 21.9 2.5 14.1 0.045 40 0.67 70 23.4 29.3
8-9 27.4 3.4 13.7 0.046 40 0.67 70 29.4 36.7
10-11 36.3 5.1 14.6 0.057 40 0.67 75 37.6 47.0
12-14 47.5 3.0 14.8 0.026 40 0.67 80 42.8 53.6
15-17 51.9 0.7 11.9 0.004 40 0.67 85 41.5 51.8
\displaystyle D = \frac{B\times1,000}{365} \times \frac{C}{100 \times A}\\  \\  H = \left( \frac{D}{E} \times 100 + \frac{F}{G} \times 100 \right) \times A\\  \\  I = H \times 1.25

乳児

 乳児については目安量となります.0-5 ヶ月では 9.83 g/d であり, 6-8 ヶ月では 12.5 g/d であり, 9-11 ヶ月では 22.0 g/d です.人工栄養児の目安量は 0-5 ヶ月では 14.0 g/d であり, 6-8 ヶ月では 15.2 g/d であり, 9-11 ヶ月では 23.8 g/d です.

妊婦

 妊婦ではたんぱく質の付加量を最終的な体重増加を 11.0 kg と仮定し,体カリウム増加量から間接的に算定します.妊婦の付加量の推定平均必要量は初期は 0 g/d であり,中期は 4.51 g/d であり,後期は 18.98 g/d です.妊婦の付加量の推奨量は初期は 0 g/d であり,中期は 5.64 g/d であり,後期は 23.73 g/d です.

授乳婦

 授乳婦の付加量の推定平均必要量は 14.04 g/d, 推奨量は 17.6 g/d です.1 日の平均泌乳量は 0.78 L/d であり,母乳中のたんぱく質濃度の平均値は 12.6 g/L です.食事性たんぱく質の母乳たんぱく質への変換効率は 70 % です.

不可欠アミノ酸

 不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の推定平均必要量は下記のとおりです.

不可欠アミノ酸の推定平均必要量 2015 年版
His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
組織アミノ酸パターン 27 35 75 73 35 73 42 12 49 421
維持アミノ酸パターン 15 30 59 45 22 38 23 6 39 277
たんぱく質必要量 (g/kg/d) に対するアミノ酸必要量 (mg/kg/d)
年齢 維持量 成長量 His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
0.5 0.66 0.46 22 36 73 63 31 59 35 9.5 48 376
1-2 0.66 0.20 15 27 54 44 22 40 24 6.4 36 267
3-10 0.66 0.07 12 22 44 35 17 30 18 4.8 29 212
11-14 0.66 0.07 12 22 44 35 17 30 18 4.8 29 212
15-17 0.66 0.04 11 21 42 33 16 28 17 4.5 28 200
18- 0.66 0.00 10 20 39 30 15 25 15 4.0 26 183
評点パターン (mg/g protein)
年齢 His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
0.5 20 32 66 57 28 52 31 8.5 43 336
1-2 18 31 63 52 25 46 27 7.4 41 310
3-10 16 30 61 48 23 41 25 6.6 40 291
11-14 16 30 61 48 23 41 25 6.6 40 291
15-17 16 30 60 47 23 40 24 6.4 40 286
18- 15 30 59 45 22 38 23 6.0 39 277

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)たんぱく質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)たんぱく質 (pdf)