n-6 系脂肪酸

 日本人が摂取する n-6 系脂肪酸の 98 % はリノール酸です.生体は n-6 系脂肪酸を合成できないため経口摂取する必要があります.平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養著差によると,日本人の n-6 系脂肪酸摂取量の中央値は男性 10.0 g/d (4.3 %E), 女性 8.4 g/d (4.6 %E) です.健康な人の推定平均必要量の設定に必要な報告はなく,日常生活で n-6 系脂肪酸の欠乏による皮膚炎の報告はないため,目安量を設定しました.

乳児

 0-5 ヶ月児については母乳中の n-6 系脂肪酸濃度 5.16 g/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて4.0 g/d を目安量としました.6-11 ヶ月児については 0-5 ヶ月児の目安量と 1-2 歳児の目安量の平均を求め,4.3 g/d を目安量に設定しました.

小児・成人

 平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養調査から算出した n-6 系脂肪酸摂取量の中央値を目安量に設定しました.

妊婦・授乳婦

 平成 19 年から 23 年までの国民健康・栄養調査から算出した妊婦の n-6 系脂肪酸摂取量の中央値は 9 g/d であり,これを目安量に設定しました.同様に授乳婦の n-6 系脂肪酸摂取量の中央値は 9 g/d であり,これを目安量に設定しました.

 リノール酸は一価不飽和脂肪酸のオレイン酸より酸化されやすく多量に摂取した際のリスクは十分に分かっていません.またリノール酸は炎症惹起物質のプロスタグランジンやロイコトリエンを生成するため,多量摂取時の安全性が危惧されます.n-6 系脂肪酸については過剰摂取のリスクが想定されていますが,日本人を対象とした報告がないため目標量は設定されていません.

 n-6 系脂肪酸の食事摂取基準の 2015 年版および 2010 年版は下表のとおりです.

n-6 系脂肪酸の食事摂取基準 (g/d) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目安量
0-5 M 4 4
6-11 M 4 4
1-2 5 5
3-5 7 6
6-7 7 7
8-9 9 7
10-11 9 8
12-14 12 10
15-17 13 10
18-29 11 8
30-49 10 8
50-69 10 8
70- 8 7
妊婦 9
授乳婦 9
n-6 系脂肪酸の食事摂取基準 (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 (g/d) 目標量 (% energy) 目安量 (g/d) 目標量 (% energy)
0-5 M 4 4
6-11 M 5 5
1-2 5 5
3-5 7 6
6-7 8 7
8-9 9 8
10-11 10 9
12-14 11 10
15-17 13 11
18-29 11 < 10 9 < 10
30-49 10 < 10 9 < 10
50-69 10 < 10 8 < 10
70- 8 < 10 7 < 10
妊婦付加量 + 1
授乳婦付加量 + 0

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)

脂質

 栄養学的に重要な脂質は脂肪酸,中性脂肪,リン脂質,糖脂質およびステロール類です.脂肪酸には二重結合を含まない飽和脂肪酸,二重結合が一つ存在する一価不飽和脂肪酸,二つ以上存在する多価不飽和脂肪酸があります.多価不飽和脂肪酸は二重結合の位置により n-3 系脂肪酸と n-6 系脂肪酸とに区別されます.不飽和脂肪酸には光学異性体があり,自然界にはシス型が大部分ですが,工業的に合成されるトランス型もあります.中性脂肪にはモノアシルグリセロール,ジアシルグリセロール,トリアシルグリセロールがあります.コレステロールはステロイド骨格を持ち炭化水素側鎖を持つ分子で,水にも油脂にも溶ける両親和性です.

 脂質は細胞膜の主要な成分でエネルギー産生の基質です.脂肪酸のエネルギー価は 9 kcal/g と炭水化物やたんぱく質の 2 倍以上です.また脂質は脂溶性ビタミン吸収を助けます.コレステロールは細胞膜の構成成分であり,肝臓で胆汁酸に変換されます.また性ホルモンや副腎皮質ホルモンなどのステロイドホルモン,ビタミン D の前駆体です.

 食事摂取基準が設定されたのは脂質,飽和脂肪酸,n-6 系脂肪酸,n-3 系脂肪酸のみです.一価不飽和脂肪酸やトランス脂肪酸,共役リノール酸,ジアシルグリセロールや中鎖トリアシルグリセロール,植物ステロール,コレステロールについては食事摂取基準は設定されていません.

 特にコレステロールについては 2010 年版では 18 歳以上の男性で 750 mg/d 未満,18 歳以上の女性で 600 mg/d 未満と食事摂取基準が設定されていましたが,2015 年版では撤廃されています.

脂質(脂肪エネルギー比率)

 2015 年版および 2010 年版における脂質の食事摂取基準,つまり脂質の総エネルギーに占める割合(脂質エネルギー比率)は下表のとおりです.2015 年版では 30 歳以上の目標量に変更がみられます.妊婦および授乳婦については摂取基準は設定されていません.

 0-5 ヶ月児の場合,母乳中の脂肪濃度は 3.5 g/100 g であり母乳 100 g 中の脂質由来のエネルギーは 31.5 kcal/100 g です.母乳 100g の総エネルギーは 65 kcal なので脂肪エネルギー比率は 48.46 % となり丸めて 50 %E と設定しました.6-11 ヶ月児の場合は 0-5 ヶ月児の目安量と 1-2 歳児の摂取量の中央値の平均値 37.9 %E に設定しました.1-2 歳児の摂取量は平成 22 年,23 年の国民健康・栄養調査に基づいています.

 小児および成人の脂質の目標量の下限値については,本文中に記載はありませんが,国民健康・栄養調査に基づいて 20 %E に設定されたようです.また欧米で低脂質とされるエネルギー比 30 %E 未満を目標量の上限値に設定したようです.

脂質の食事摂取基準 (% energy) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目標量(中央値) 目安量 目標量(中央値)
0-5 M 50 50
6-11 M 40 40
1-2 20-30 (25) 20-30 (25)
3-5 20-30 (25) 20-30 (25)
6-7 20-30 (25) 20-30 (25)
8-9 20-30 (25) 20-30 (25)
10-11 20-30 (25) 20-30 (25)
12-14 20-30 (25) 20-30 (25)
15-17 20-30 (25) 20-30 (25)
18-29 20-30 (25) 20-30 (25)
30-49 20-30 (25) 20-30 (25)
50-69 20-30 (25) 20-30 (25)
70- 20-30 (25) 20-30 (25)
妊婦
授乳婦
脂質の食事摂取基準 (% energy) (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目標量(範囲) 目安量 目標量(範囲)
0-5 M 50 50
6-11 M 40 40
1-2 20-30 20-30
3-5 20-30 20-30
6-7 20-30 20-30
8-9 20-30 20-30
10-11 20-30 20-30
12-14 20-30 20-30
15-17 20-30 20-30
18-29 20-30 20-30
30-49 20-25 20-25
50-69 20-25 20-25
70- 20-25 20-25
妊婦
授乳婦

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)