脂質

 栄養学的に重要な脂質は脂肪酸,中性脂肪,リン脂質,糖脂質およびステロール類です.脂肪酸には二重結合を含まない飽和脂肪酸,二重結合が一つ存在する一価不飽和脂肪酸,二つ以上存在する多価不飽和脂肪酸があります.多価不飽和脂肪酸は二重結合の位置により n-3 系脂肪酸と n-6 系脂肪酸とに区別されます.不飽和脂肪酸には光学異性体があり,自然界にはシス型が大部分ですが,工業的に合成されるトランス型もあります.中性脂肪にはモノアシルグリセロール,ジアシルグリセロール,トリアシルグリセロールがあります.コレステロールはステロイド骨格を持ち炭化水素側鎖を持つ分子で,水にも油脂にも溶ける両親和性です.

 脂質は細胞膜の主要な成分でエネルギー産生の基質です.脂肪酸のエネルギー価は 9 kcal/g と炭水化物やたんぱく質の 2 倍以上です.また脂質は脂溶性ビタミン吸収を助けます.コレステロールは細胞膜の構成成分であり,肝臓で胆汁酸に変換されます.また性ホルモンや副腎皮質ホルモンなどのステロイドホルモン,ビタミン D の前駆体です.

 食事摂取基準が設定されたのは脂質,飽和脂肪酸,n-6 系脂肪酸,n-3 系脂肪酸のみです.一価不飽和脂肪酸やトランス脂肪酸,共役リノール酸,ジアシルグリセロールや中鎖トリアシルグリセロール,植物ステロール,コレステロールについては食事摂取基準は設定されていません.

 特にコレステロールについては 2010 年版では 18 歳以上の男性で 750 mg/d 未満,18 歳以上の女性で 600 mg/d 未満と食事摂取基準が設定されていましたが,2015 年版では撤廃されています.

脂質(脂肪エネルギー比率)

 2015 年版および 2010 年版における脂質の食事摂取基準,つまり脂質の総エネルギーに占める割合(脂質エネルギー比率)は下表のとおりです.2015 年版では 30 歳以上の目標量に変更がみられます.妊婦および授乳婦については摂取基準は設定されていません.

 0-5 ヶ月児の場合,母乳中の脂肪濃度は 3.5 g/100 g であり母乳 100 g 中の脂質由来のエネルギーは 31.5 kcal/100 g です.母乳 100g の総エネルギーは 65 kcal なので脂肪エネルギー比率は 48.46 % となり丸めて 50 %E と設定しました.6-11 ヶ月児の場合は 0-5 ヶ月児の目安量と 1-2 歳児の摂取量の中央値の平均値 37.9 %E に設定しました.1-2 歳児の摂取量は平成 22 年,23 年の国民健康・栄養調査に基づいています.

 小児および成人の脂質の目標量の下限値については,本文中に記載はありませんが,国民健康・栄養調査に基づいて 20 %E に設定されたようです.また欧米で低脂質とされるエネルギー比 30 %E 未満を目標量の上限値に設定したようです.

脂質の食事摂取基準 (% energy) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目標量(中央値) 目安量 目標量(中央値)
0-5 M 50 50
6-11 M 40 40
1-2 20-30 (25) 20-30 (25)
3-5 20-30 (25) 20-30 (25)
6-7 20-30 (25) 20-30 (25)
8-9 20-30 (25) 20-30 (25)
10-11 20-30 (25) 20-30 (25)
12-14 20-30 (25) 20-30 (25)
15-17 20-30 (25) 20-30 (25)
18-29 20-30 (25) 20-30 (25)
30-49 20-30 (25) 20-30 (25)
50-69 20-30 (25) 20-30 (25)
70- 20-30 (25) 20-30 (25)
妊婦
授乳婦
脂質の食事摂取基準 (% energy) (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目標量(範囲) 目安量 目標量(範囲)
0-5 M 50 50
6-11 M 40 40
1-2 20-30 20-30
3-5 20-30 20-30
6-7 20-30 20-30
8-9 20-30 20-30
10-11 20-30 20-30
12-14 20-30 20-30
15-17 20-30 20-30
18-29 20-30 20-30
30-49 20-25 20-25
50-69 20-25 20-25
70- 20-25 20-25
妊婦
授乳婦

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)